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陸上養殖とは?最新事例もご紹介!

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陸上養殖とは?最新事例もご紹介!

漁業には大きく分けて漁船漁業と養殖漁業がありますが、養殖漁業のなかにもいくつかの種類が存在します。そのなかで近年注目を集めつつあるのが「陸上養殖」です。メジャーな養殖方法である海面養殖とは異なる特徴を持ち、陸上養殖だからこそのメリットと課題が存在します。そこで今回は、陸上養殖の特徴について紹介していきましょう。

陸上養殖とは

陸上養殖とは、陸上に水槽などの設備を置き、人工的な環境下で魚の養殖を行う手法です。一般的な養殖は海面など自然環境の一部を区切って行われますが、陸上養殖は水面から完全に区切られているのが特徴と言えます。

近年では陸上養殖が注目され始めており、各企業や研究機関によるプロジェクトも進行しています。今後さらに発展していく可能性があるため、概要について再確認しておきましょう。

陸上養殖のやり方

陸上養殖の環境を築くためには、さまざまな設備を用意しなければなりません。多くの場合において、以下の設備が必須となります。

  • 水槽
    水槽は生物を収容・飼育するために必要です。水槽にはさまざまな材質や形があり、養殖する予定の生物に適したタイプを選ばなければなりません。また、設置場所についても考慮し、なるべくゴミが溜まりにくい形状を選ぶ意識も必要です。
  • 物理ろ過
    物理ろ過は、養殖する生物の食べ残し、排泄物といった水槽内に発生するゴミの除去に必要です。水槽内で発生するゴミの種類によって、必要な処理方法が異なるのもポイント。頻繁にメンテナンスが必要な部分にもなるため、事前に性能をしっかり確認しておきましょう。
  • 生物ろ過
    肉眼では問題がなさそうに見えても、水中には生物に悪影響を及ぼしかねない汚染物質が存在します。こうした物質を低害化・無害化していく役割を持つのが生物ろ過です。生物ろ過を選ぶ際は、なるべく表面積が大きく目詰まりしにくい素材を選んでください。
  • 循環ポンプ
    水槽内の水はろ過槽などの各処理設備に送る必要があるため、常に循環させなければなりません。その役割を果たすのが循環ポンプです。ポンプの種類によって流れる量などが変わるため、養殖する生物に合わせたタイプを選びましょう。海水を利用する場合は、錆に強いタイプもおすすめです。
  • 殺菌装置
    殺菌装置は、水槽内で発生した病原菌・ウイルスに対処するための設備です。効果を最大限に発揮するためには、ろ過設備との適切な組み合わせが必要となります。また、生物との相性が悪いとダメージになる恐れもあるため、選ぶ際には注意しましょう。
  • 水温調節機
    養殖する生物の適切な成長を促すため、水槽内は常に最適な水温を保っておきたいところ。そこで設置しておきたいのが、水温調節機です。ややコストのかかる設備であるため、断熱性の高い水槽などと併用して、効果を最大限に発揮させるのがコツとなります。

陸上養殖のデータ

現在、陸上養殖がどの程度普及しているのか気になる方も多いでしょう。ここでは、陸上養殖について現在判明しているデータを詳しく紹介します。

  • 施設数・推移
    2020年3月に公表された水産庁監修による「我が国の養殖業と成長産業化に向けた論点整理」によると、現在のところ養殖漁業の主流は海面養殖となっています(※1)。ただし、近年ではさまざまな魚種において陸上養殖が試行され、事業化まで到達したケースが増加しています。今後も、陸上養殖が増加する流れは継続すると予想されるでしょう。
  • 水揚げ量
    水産庁が2022年6月に発表した調査結果によると、2021年に記録した日本全国の陸上養殖による水揚げ量は推定2,356トンになるとのことでした(※2)。また、同調査によると新規参入は増加傾向にあり、今後も水揚げ量は増加すると考えられています。
  • 市場規模
    市場調査会社である富士経済が2022年10月に公表したデータによると、2022年の陸上養殖設備市場規模は120億円とのことでした(※3)。さらに、同資料によると2030年には市場規模が200億円にまで成長すると見込んでおり、成長著しい市場であることがうかがえます。
  • 今後の予測
    陸上養殖は現在注目を集める方法となりつつあり、2023年1月にはNHKにも取り上げられるなど、知名度は拡大中です。農林水産省も陸上養殖を後押しする姿勢を示しており、今後ますます普及するとの予測が立てられています。

陸上養殖のメリット・デメリット

陸上養殖には、海面養殖にはないメリット・デメリットが存在します。実際に導入してから困惑しないためにも、あらかじめ特徴についてしっかり把握しておきましょう。

<陸上養殖のメリット>
  • 環境の調整がしやすい
    陸上養殖の優れている点として、環境の調整がしやすい点が挙げられます。海面養殖だと水温や塩分濃度の調整はできず、生物に害を及ぼす病原菌の侵入を防ぐこともできません。一方で、海面から完全に切り離された陸上養殖なら、環境を速やかに調整できます。
  • 寄生虫をブロックしやすい
    陸上養殖は水槽内で生物を育てるため、水中にエサ以外が混入しにくい環境です。これにより、魚に寄生するアニサキスなどの寄生虫をブロックしやすくなるでしょう。
  • 漁業権が必要ない
    海面養殖の場合、海域の一部分を使用することから、その地域の漁協に加入して漁業権を得る必要があります。一方で、陸上養殖であれば海面を利用しないため、漁業権を必要とせず、参入のハードルが低くなる点がメリットです。
<陸上養殖のデメリット>
  • 初期コスト・維持費が高い
    陸上養殖は海面を使用しない分、設備を整えなければなりません。まずは土地や構造物を購入する必要があり、高額な初期費用が生じるのは避けられないでしょう。また、生物を適切に成長させるためには設備を稼働させ続けなければならず、高い維持費が生じます。
  • 災害の影響を受けやすい
    陸上養殖は、災害の影響を受けやすいこともデメリットです。地震や台風、洪水などが発生すると設備が破損する恐れがあり、大きな損失につながってしまうでしょう。
  • 鳥・天敵に狙われる
    陸上養殖は海面養殖と比べ、鳥など魚の天敵から狙われやすくなります。鳥から生物を守るためには屋根などを設ける必要がありますが、建築費が発生するのは確実です。

陸上養殖の種類

陸上養殖には大きく分けて3つの種類があり、それぞれ特徴が異なります。自身に適した養殖方法を選択するため、ここで特徴を確認してください。

  • かけ流し式
    近くの海、川、井戸などから新たな水を供給する手法です。設備導入コストが小さい一方、利用する海や川などの水質を常にチェックする必要があります。
  • 閉鎖循環式
    一度排水した水槽水をろ過・殺菌し、再利用する手法です。外部環境の影響を受けづらく、排水が少なくなるメリットがある一方、多くの設備を必要とします。そのため、コストはその他の手法と比べても高額となります。
  • 半閉鎖循環式
    外部から水を供給するかけ流し式と、排水した水槽水を再利用する閉鎖循環式を組み合わせた手法です。かけ流し式より水質管理がしやすく、閉鎖循環式よりコストを抑えられる点が魅力と言えるでしょう。

陸上養殖の事例

現在の日本では、実際に陸上養殖を導入して成果を挙げている漁港も存在します。ここでは、そのなかから3つの事例を紹介します(※4)。

事例1:かけ流し式によるヒラメ養殖

鳥取県の泊漁港では、かけ流し式による陸上養殖を実施。八角水槽の18.5 ㎡サイズを18 基、15.0 ㎡サイズを1 基用意し、稚魚については鳥取県栽培漁業センターで購入しています。エサについては高タンパク、低脂肪のヒラメ用配合餌料のみを使用。飼育開始から約2年で1kgまで成長しており、単価3,000円(1kg)のヒラメを安定して供給できています。

事例2:かけ流し式によるサクラマス養殖

富山県の伏木富山港では、かけ流し式によるサクラマス養殖をスタートしています。直径 8m、深さ 1.6mの水槽を16~20 基用意。大門漁協から10 月に採卵し、翌年 5月まで飼育された稚魚を手に入れています。餌料には 配合飼料(EP) を用いており、自動給餌器より1日2回給餌。サーモンに比べ臭みの少ない味を実現しており、全国的な単価(1,500円)より高めの1,800円~2,000円(1kg)で取引されています。

事例3:閉鎖循環式によるクエ養殖

長崎県の長崎漁港では、閉鎖循環式によるクエ養殖を実施。直径5mの水槽を使用しており、長崎県栽培公社から全長約 15 ㎝、約 20~50g の種苗を導入しています。配合飼料(EP)を用いており、増肉係数は2.0程度。海面養殖だと3~4年で1kgの成長となるところ、2年で1kg、3年で2kg 以上の成長を実現させています。

陸上養殖の課題

さまざまなメリットを備え、近年では導入が増加傾向にある陸上養殖。一方、海面養殖に比べると歴史が浅く、未発達な部分があるのは確かです。管理の難易度も高く、不測の事態によって安定した生産がストップするリスクはあるでしょう。

現在はこうした課題の解決に向けた取り組みが進められており、以下の成果が期待されています

  • エネルギーの有効活用によるコスト削減
  • 産官学連携(コンソーシアム)による要素技術の高度化
  • 新たな技術開発
  • AIシステムを使った作業自動化
  • 未利用タンパク源による飼料の開発

こうした取り組みが成果を挙げれば、陸上養殖はより効率的で低コストとなり、漁業全体にとっても大きな変革が見込めるでしょう。

陸上養殖では確かな情報収集がカギに

陸上養殖は外部環境の影響を受けにくく、漁業権も必要ないなどいくつものメリットを備えた養殖方法です。ただし、現状ではまだまだデメリットや課題もあり、始める前にはしっかりと準備しなければなりません。設備については慎重に吟味する必要があるため、情報収集は欠かさないようにしてください。

【出典】

※1 養殖業成長産業化推進協議会「我が国の養殖業と成長産業化に向けた論点整理(令和2年3月10日版)」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/yousyoku/attach/pdf/seityou_19-25.pdf

※2 水産庁「令和4年度 水産白書 全文」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r04_h/trend/1/t1_2_1.html

※3 富士経済「次世代アグリ&食糧ビジネスの最前線と将来展望2022」
https://www.fuji-keizai.co.jp/press/detail.html?cid=22108&la=ja

※4 水産庁「漁港水域等を活用した増養殖の手引き 令和2年9月」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/seibi/attach/pdf/zouyousyoku_tebiki-22.pdf

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