
世界的な人口増加にともない、魚介類への需要も近年では高まりつつあります。しかし、その多くを天然資源に依存している漁業においては、乱獲やそれにともなう生態系変化などを原因とした資源枯渇が懸念されているのも事実でしょう。持続可能な水産物の供給が課題となるなか、注目を集めつつあるのが「養殖漁業」です。ここでは、最新技術の導入などによって、「持続可能な未来」実現に大きな役割を果たすと期待される養殖漁業の“今”を紹介していきます。
目次最新技術で進化する養殖漁業の現状と展望
近年、世界中で急速に拡大している養殖漁業。FAO(国際連合食糧農業機関)の発表によると、現在世界供給されている水産物の半分以上は養殖によるものとなっています。このように、存在感を示す養殖業ですが、環境への適応といった課題は存在しており、改善のため技術革新が必要な状態です。
水産業界では、ドローンを用いた魚群探索を実現するための研究開発、情報通信技術(ICT)による漁場環境の情報可視化、いか釣り漁船へのLED漁灯導入など、近年さまざまな最新技術を取り入れた取り組みが進められています。
養殖漁業においても、この最新技術の導入に向けた動きは例外ではありません。一例として、深刻化する気候変動に対応可能な高温耐性の高い「ノリ」の育種素材開発、病気に強くより成長速度の速いブリの選抜育種推進などが挙げられるでしょう。
また、日本人にとってなじみ深いウナギやマグロについても、天然漁業のみでは資源減少の懸念があるため、養殖漁業の需要が拡大。ニホンウナギと太平洋クロマグロ、いずれも資源回復が求められる状態であることから、今後も安定供給していくために人工種苗の量産を実現するための技術開発が進められているのです。
その他、こちらも日本で人気のカキやホタテ貝といった貝類についても、貝毒検出のための技術開発が進行中。万が一を防ぎ、消費者へ安全・安心を届けるための工夫が日進月歩で進化しています。
養殖漁業の未来|持続可能な水産業を目指して
持続可能(サステナブル)な漁業とは、水産資源と環境に配慮した漁業を指します。漁獲量や漁業規模についてはあらかじめ定められたルールを守る必要があり、これによって以下の効果が期待されているのです。
・限りある海洋資源の急激な減少・枯渇防止
・海洋環境・生態系の回復
・海洋生物の生息域・絶滅危惧種保護
・水産事業関係者の生活の安定化
・強制労働防止
現在は、世界中に持続可能な漁業を推進する団体が存在しています。なかでも特に著名な団体として知られているのが「Marine Stewardship Council(MSC)」です。MSCでは、漁業の持続可能性について、下記の3つの原則を意識すべきであると提唱しています。
1つ目は、「資源の持続可能性」の実現です。今後も豊かな海の資源を守っていくため、過剰漁業による水産資源の減少などを防ぐことはもちろんですが、資源回復にも目を向けなければなりません。日本においても、藻場回復のための再生プロジェクトが始動するなど、すでに動き出している事例は存在します。
2つ目は「漁業が生態系に与える影響」です。過剰漁業などが続いてしまえば、生態系に大きな影響を与えるのは間違いありません。だからこそ、漁業界は生態系の構造について考えたうえで、多様性・生産力維持に向けた手法で漁業を続けていく意識が大切になるのです。
3つ目は「漁業管理システム」です。持続可能な漁業を実現するには、上記2つの原則を満たした管理システムを有し、国内外問わずルールを尊重する必要があります。加えて、持続可能な資源利用実現に向けた制度の構築も将来的には目指すべきでしょう。
地域経済を支える養殖漁業の可能性と課題
養殖漁業は食料供給手段としても非常に重要ですが、それだけでなく地域経済を支える産業となれる点も見逃せません。たとえば、漁業資源が乏しく沿岸漁業、沖合漁業、遠洋漁業などが難しい地域であっても、養殖漁業であれば雇用創出や経済活動活性化に貢献できる期待が持てます。
現在の日本の沿岸部には、2015年時点で6,291もの漁業集落が存在しており(※1)、水産業発展の基盤という役割を担っています。一方で、養殖漁業にはいくつかの課題も。日本の水産業は基本的に国内需要依存型となっており、養殖魚の需給バランスが崩れることで価格の乱高下が生じやすい傾向にあります。価格が急落すれば、養殖業経営はもちろん地域経済全体にも大きなダメージが生じるのは間違いありません。
それでも、養殖漁業は地域経済を支え続ける重要な産業として、将来的にその役割をさらに拡大していく期待が持たれています。地域特性を活かしつつ、持続可能な生産と経済発展を両立させていければ、日本の多くの地域発展に貢献してくれるでしょ
環境に優しい養殖漁業|エコフレンドリーな生産方法
水産資源を保護していくため、水産業界でも環境保護への意識が強まりつつあります。それは養殖漁業においても例外ではありません。
従来の養殖方法では、排水放出や餌の過剰使用が環境汚染につながる懸念が持たれていました。しかし、近年では環境負荷の少ないエサの開発や、給餌方法の改良によるエコフレンドリーな生産方法が進められつつあり、環境との調和が実現しつつあります。
また、養殖魚の排泄物や残餌から溶出した窒素、リンといった海洋汚染につながりかねない物質についても、ワカメ、ヒロメといった海藻養殖をすることで回収。これによって海藻が生産され、食用や餌として利用できるシステムの構築も進んでいます。
持続可能な未来のため、進化を続ける養殖漁業
いつまでも豊かな海洋資源を守り、持続可能な未来を支えるため、養殖業はこれからの業界で大きな役割を担っていくことが期待されます。漁業関係者であれば、まず養殖業の現状や環境保全方法についての理解を深めることが大切になるでしょう。そのうえで、できる限りの行動を実行していければ、持続可能な資源管理に大きく貢献できるはずです。