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日本の海水温のデータ
海水温の上昇は、データによって証明されています。気象庁が2023年に発表したデータによると、日本近海におけるおよそ100年間の海域平均海面水温の上昇率は、「+1.28℃」という結果に。この数字は世界全体の平均海面水温上昇率(+0.61℃)と比較しても大きな数字となっており、対策が必要となっています。
また、気象庁は2023年の年平均海面水温について、平年差は+0.40℃とも合わせて発表しています。こちらについても、海面水温の統計データを取り始めた1891年以降、もっとも高い数字となっており、海水温が高まり続けていることがわかります。
海水温が上昇の一途をたどる背景として、地球の気温上昇が挙げられるでしょう。基本的に、海洋温度は地上の平均気温上昇と比例して上昇していきます。地球上の平均気温上昇、いわゆる「地球温暖化」は、大気中の二酸化炭素を含む温室効果ガスの増加が原因です。
温室効果ガスは太陽熱を取り込み、その熱を地球に閉じ込める働きを持っています。これにより、大気の温度は高まる一方となり、この熱を吸収する海もまた温度が上昇していくのです。
つまり、地球温暖化と海洋温度が密接な関係にあるのは間違いありません。そのため、世界中で叫ばれている地球温暖化問題は、水産業事業者にとっても決して他人事ではないのです。
海水温の上昇による漁業への影響
海水温の上昇は大きな問題となりつつありますが、具体的にどのような影響が生じるかについても把握しておくべきでしょう。第一に、海水温が上昇すれば海中の生態系に変化が生じます。実際、近年はブリやサワラ等の分布域が北上しており、特にブリは北海道での漁獲量が増加傾向です。このまま海水温の上昇が続くと、これらの魚はさらに北上してしまい、これまで日本近海で獲れていた冷水を好む魚が獲れなくなってしまう未来も考えられるでしょう。
また、沿岸資源においても海水温上昇の影響が生じています。九州沿岸では海流の変化や砂泥の流入などによって発生する「磯焼け」の拡大によって、イセエビ、アワビといった磯根資源が減少。瀬戸内海においても、南方系魚類「ナルトビエイ」が北上してきたことで、アサリへの食害が深刻となりつつあります。
その他、温暖化によって海水温度が上昇すれば、水が軽くなることで海面付近と深層の水が混ざらないようになり、深海の栄養分が循環しにくくなる問題も。海面付近の栄養分が減少すればプランクトンの減少につながり、ひいては魚も減少してしまうことでしょう。
取られている対応策
海水温上昇が続いている日本では、何らかの対策を講じることが必要です。とはいえ、問題の規模が大きいこともあり、どのような対応をとればいいかは悩みどころでしょう。現状では、海水温上昇への対応策として以下の行動が挙げられます。
- 海水温上昇が藻場へ及ぼす影響の把握
昆布やワカメに代表される海藻は、海水温の影響を受けやすいことで知られています。そのため、海水温が上昇してしまうと、藻場の環境が大きく変わってしまう恐れがあるでしょう。だからこそ、海水温上昇が藻場にどのような影響を及ぼすか、事前の把握が必要になります。
- 海藻種の将来的なハビタットマップ作成
このまま海水温上昇が続けば、藻場の環境が変わる可能性も出てくるでしょう。そこで、あらかじめ海水温上昇に備え、海藻種の将来的なハビタットマップを作成しておくことが重要です。ハビタットマップとは、生物分布や生育環境を区分けした図面を指します。現在はすでに多くの予測データが作成されており、備えが進んでいる状態です。
- 海水温上昇を考慮した磯焼け対策の実証試験
海水温上昇により生じる可能性が高い磯焼け。どの程度の規模で発生するか、その対応を含めた実証試験は、磯焼け防止への高い効果が期待されています。実際にどの海水温でどの海藻が育ちやすいかを把握できれば、大きな対策となるのは間違いありません。
- 環境DNAを用いた植食魚の分布把握
定量PCR分析系により環境DNAを調査し、空間分布や蝟集時期を把握できれば、将来的に有効な対応策の策定が期待できるでしょう。現在はその検証が進められており、環境DNA技術のさらなる活用が見込まれています。
水産物における貿易額の変化
海水温上昇は、将来的に水産物の貿易額に影響を及ぼす恐れもあります。農林水産省が公表した「漁業・養殖業生産統計」を見てみると、サンマやスルメイカ、サケなどは漁獲量が減少傾向にあることがわかります。これは海水温上昇による分布域変化や回帰率低下が原因であり、今後もこの流れが続く可能性は高いでしょう。そうなれば、貿易額は今後も減少していく恐れがあります。
未来への展望と課題
このまま海水温が上昇し続ければ、冷水を好む魚が日本近海で獲れなくなるといった、魚種の変化が考えられます。海水が上昇すればするほど、適温の場所へ移動したり、回遊ルートが変わったりする懸念も強まるでしょう。
ただし、北上や回遊ルートの変更にも限度がある点については、覚えておかなければなりません。海に生息する生き物にとって、海水温上昇は住む場所を追われる原因となり得るため、現状は危機的なものと言えるでしょう。
たとえば、日本の食卓になじみ深いサケも、2050年にはオホーツク海の海水温上昇によって日本周辺の回遊ルートが消失する可能性もゼロではありません。そうなれば、漁獲量の減少は避けられないでしょう。
そのほかにも、海中の酸素不足、潮流の変化、貝や魚の毒化などが専門家から指摘されるなど、海に関する問題は山積みです。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、このまま気候変動が続いていけば、今世紀末には世界の漁獲量が最大約24%減少するとの予測もされており、今すぐにでも対策に動く必要があります。
現在も水産事業者と自治体が連携したり、国を挙げて適応策を実施したりといった姿は見られていますが、今後さらなる有効な対応が必要とされる状況なのです。
海水温上昇に備え、現状をしっかり把握しよう!
海水温の上昇によって、日本近海でも魚種の変化をはじめとするさまざまな影響が生じ始めています。漁業関係者として、こうした状況は決して他人事ではありません。まずは現状についてしっかり把握したうえで、できることから改善に向けて動き出してみましょう。