
漁業権とは
水産業を営む上で、非常に重要となるのが「漁業権」です。漁業権とは、水産庁が定めているように「一定の水面において特定の漁業を一定の期間排他的に営む権利」を指します。
この漁業権は、各都道県府知事から免許を受けることで取得が可能になるものです。仮に漁業権を保有していない人物・企業・団体などが無許可で漁を行った場合、「密漁」と見なされ罰則の対象となります。
漁業権は基本的に、その地域の漁業協同組合が有しています。そのため、その地域の漁業協同組合から遊漁券や入漁料を購入せずに魚釣りをした場合は、たとえ密漁の意図はなくとも、密漁と見なされてしまう恐れもあるため注意しなければなりません。
近年は、悪質な密漁が多発していることもあり、国としても規制を強化しています。2018年に漁業法改正が改正されたことで、密漁の罰則は以下のようになりました(※1)。
次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は三千万円以下の罰金に処する。 一 第百三十二条第一項の規定に違反して特定水産動植物を採捕した者 二 前号の犯罪に係る特定水産動植物又はその製品を、情を知つて運搬し、保管し、有償若しくは無償で取得し、又は処分の媒介若しくはあつせんをした者 ※漁業法第189条より引用 |
上記のように、密漁者には非常に重い罰則が科せられるため、抑止力としての効果が期待されています。
密漁の現状と問題点
近年、密漁は世界中で大きな問題となりつつありますが、世界有数の漁獲量を誇る日本においても、それは同様です。水産庁が発表した資料によると、2022年における全国の海上保安部、都道府県警察及び都道府県における密漁の検挙件数は「1,561件」となりました。令和に入ってからは徐々に減少傾向にありましたが、ここに来て数字が増加する状況となっています。
密猟者の特徴として特筆すべきは、近年は漁業者による違反操業は減少傾向にあることです。一方で、漁業者以外による密漁については増加傾向となっているため、対策が急務の状態だと言えるでしょう。
このまま密漁が増加していけば、水産事業者に大きな影響が生じるのは確実でしょう。水産事業者と違い、密漁者には水産資源を保護する意識はないため、乱獲されてしまう恐れがあるからです。今の傾向が改善されなければ、水産資源はみるみるうちに減少していき、今は身近な魚たちが姿を消す危険性すら考えられます。
ただでさえ、現在の日本の漁業生産量は減少傾向にあるのが実情です。2019年度の水産白書を見てみると、2018年における日本の生産量は442万トン、生産額は1兆5,579億円とありますが、これは漁業生産量のピークとされている1984年の1,282万トンから大きく減少した数字となっています。
こういった状況を改善すべく、水産事業者たちは日々チャレンジを続けています。しかし、密漁者を放置していれば、こうした試みが無意味になってしまいかねません。そういった事態を避けるためにも、何らかの対策を打つことは急務だと言えるでしょう。
密漁対策の現状
日本政府としても、密漁には大きな危機感を覚えているため、すでにいくつかの対策が実行されています。たとえば、2022年12月に施行された水産物流適正化法によって、アワビ、ナマコ、ウナギの稚魚については、違法に採捕された場合の輸入規制や罰則の強化が実現しました。これらの水産物は国内で違法に採捕されている可能性が高く、法規制によって対策が進むことが期待されています。
また、海上保安庁も密漁に対する規制の強化を進めています。密漁者に対する捜査能力のさらなる向上及び採証資機材の充実などを模索しており、これによって悪質な密漁の厳格な監視及び取締りを進めていく構えを見せています。
密漁防止のための対策方法について
前述したように、国としても密漁者の増加傾向には強い危機感を持っており、以下の対策を実行しています。
・法改正による罰則の強化
・取り締まりの強化
・総合的な密漁対策
これにより密漁の減少が期待されますが、対策すべきは密漁者のみではありません。特定水産動植物の密漁が蔓延する原因の一つには、高額な金額を出してまでこれらを購入したいと考える人物が存在するからです。
国としては、この問題についても規制に取り組んでおり、違法採捕を把握しながらも海洋資源を運搬・保管・取得もしくは処分の媒介・あっせんをした者に対して、密漁者と同様の罰則を適用しています。
加えて、使用する船舶の使用停止をはじめとする、漁業法に基づく行政処分も実施することで、密漁者やそれに与する者に対して、極めて厳しい姿勢を示しているのです。
日本のみならず、世界でも法律・制度を守らないIUU((Illegal, Unreported and Unregulated))漁業が大きな問題となっている昨今では、水産資源を少しでも守るための措置が急務となっているのは間違いありません。
魚食大国である日本でも、以下のような取り組みが必要となるでしょう。
・資源管理のルール啓発
・夜間・休漁中の漁場の監視
・密漁者発見時の取締機関への速やかな通報
こうした日頃の取り組みや活動を続けていくことは、限りある海洋資源の保護につながっていくはずです。
密漁者対策をしっかり講じて、限りある資源を守ろう
漁業者の利益を守るため、そして限りある資源を守るため、違法に海洋資源を搾取していく密漁者は厳密に取り締まらなければなりません。当事者である漁業関係者は、まず密漁の現状や対策について把握することが大切です。自分たちの権利をしっかり守っていくためにも、有効な対抗手段について理解し、関係者と連携をとりながら行動していきましょう。