
日本の水産業は人手不足が叫ばれて久しく、官民問わずさまざまな対策を講じているのが現状です。では、日本と比べて海外の水産業はどのような状況なのでしょうか。世界の水産業は日本と対照的に生産量が増加傾向にあるとされていますが、実際にどの程度のデータとなっているかについて把握しきれていない方もいるでしょう。そこで今回は、世界の水産業のデータを紹介するとともに、日本の水産業のこれからについても触れていきます。
目次世界の水産業のデータ
世界全体の水産業を見てみると、漁業と養殖業を合わせた生産量は年々増加しています。水産庁の発表したデータによると、2020年の漁業・養殖業生産量は2億1,402万tもの数字になりました。特徴として、漁業の漁獲量については1980年代後半以降、6,000万tを超えた辺りで横ばいの状態が続いているのに対して、養殖業については急激に数字が上昇しています。
漁獲量のデータを見てみると、日本だけでなくアメリカ、イギリス、欧州諸国などの先進国ではここ20年間で横ばいもしくは減少傾向に。一方で、アジアの新興国とされる中国、インドネシア、ベトナムでは漁獲量が増大し続けており、特に中国は世界の漁獲量の15%を占める1,345万tもの数字になりました。
また、養殖業についてのデータを見ると、こちらも中国とインドネシアの伸びが際立ちます。中国は養殖業の57%を占める7,048万t、インドネシアは12%を占める1,485万tとなっており、現在の世界の水産業においてはアジアの一部国が存在感を示していると言えるでしょう
水産物の漁獲量・生産量ランキング
世界の水産物漁獲・生産量を魚種別に見てみると、もっとも多いのはニシン・イワシ類です。漁獲・生産量は1,740万tなっており、これは全体の19%を占める数字となっています。ただし、ニシン・イワシのような多獲性浮魚類は環境次第で資源水準についてもかなり大きな変動が生じることから、漁獲量もその年によって大きく変わるのが特徴です。また、タラ類については1980年代後半以降、世界的に見ても漁獲・生産量の減少が続いていました。一方で、2000年代後半からは数字が増加しており、今後も伸びていくことが期待されます。そのほか、マグロ・カツオ・カジキ、エビ類についても、緩やかではあるものの着実に漁獲・生産量が増加しています
日本の水産物の漁獲量・生産量ランキング
農林水産省が発表した「令和2年漁業・養殖業生産統計」を見てみると、日本で漁獲量の多い魚種は以下の通りです。
・まいわし
・さば類
・ほたてがい
・かつお
・すけとうだら
まいわしは69万8,359tで前年と比べて25.5%、ほたてがいは34万6,013tで前年と比べて1.9%、すけとうだらは16万325tで前年と比べて4.1%の増加となりました。一方で、さば類は38万9,750tで前年と比べて13.5%、かつおは18万7,936tで前年と比べて17.9%減少する結果となっています
水産物の貿易額
水産庁が発表した「水産物貿易の動向」によると、水産物輸入量については海外の水産物人気や国内消費の減少もあり、緩やかではあるものの下落しつつあります。2021年の数字を見てみると、世界的な新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、前年から2.3%減の220万tという数字となりました。一方で、物価高の影響もあり、輸入額自体は前年から10.0%増の1兆6,099億円となっています。
こうした数字を見えてもわかるように、国内の水産物市場が残念ながら縮小しつつあると言えるでしょう。一方で、世界の水産物市場は中国やインドネシアなどのアジアを中心に拡大しています。
そのため、水産業界がこの先も維持・発展していくためには、積極的な海外展開を模索し、世界の食市場を獲得することが重要になるでしょう。実際に、現在は独立行政法人日本貿易振興機構による輸出総合サポートをはじめ、さまざまな民間事業者によってPR・販売促進活動が実施されています。
魚種別収獲量の推移
日本の2022年の漁業・養殖業の生産量は391万6,946tとなっており、これは前年比で24万777t(5.8%)の減少となりました。
その内訳を見てみると、養殖業は前年の92.7tから91.2tと微減に。一方で、海面漁業は317.9tから295.1tと大きく数字を減らす結果となっています。これは上述した世界的な流れと同様であり、特に海面漁業については何らかの対策が必要です
漁業・養殖業の従事者数の推移
日本において減少しているのは、漁獲量・生産量だけではありません。漁業就業者についても、2003年から2020年までの20年近くの間で、一貫して減少し続けています。水産庁の公表したデータによると、2020年の漁業就業者の数は前年から6.3%減少して13万5,660人に。特に新規漁業就業者の確保に苦戦しており、今までは2,000人以上の数字を維持していたのが、令和となってからは1,700人台にまで減少しました。
人手不足が叫ばれて久しい水産業界ですが、打開策として女性の活躍推進や技能実習の適正化は大きなポイントになるでしょう。漁業が女性にとって就職するうえでの選択肢となれれば、就業者数増加につながる期待が持てます。また、特定技能外国人を受け入れる体制を整えれば、大きな戦力になるはずです。
日本の水産業の現状とこれから
全体的に好調な海外の水産業と比べて、日本は国内消費が伸びず水産業従事者の数も減少。漁獲量・生産量についても下落しつつあり、厳しい状況が続いています。特に深刻となりつつあるのは人手不足であり、高齢化が進んでいる一方で新規就業者が増えないのは大きな課題です。
現状の改善として、特定技能制度を利用した外国人労働者の受け入れは一つの手段となり得ます。日本政府としても、特定技能の受け入れを促進。在留期限に上限を設けない特定技能2号の範囲拡大などの措置をとっています。まずはこうした制度を正しく理解したうえで、導入を検討していく姿勢が求められるでしょう。
水産業の未来のため、まずは国内外の情勢を知ろう!
日本における漁業の未来を考えるためには、まず国内外の水産業がどのような情勢となっているか知ることが大切です。国内の水産物市場が縮小しているのが事実である以上、これまでにない解決策を探すのが重要になるでしょう。海外市場に目を向けたり、新たな人材登用の形を模索したりといった対策も検討していくようにしてください。