
主要先進国のなかで、日本の「食料自給率」は後れを取っていると言われています。日本の食卓を支える食料については海外からの輸入に頼っているのが現状で、日本政府としても改善のための対策を講じています。そうしたなか、「食卓の魚離れ」も叫ばれる海産物の食料自給率については、具体的にどのような状況となっているのでしょうか。今回は、公表されているデータを交えつつ詳しく紹介します。
目次食料自給率とは何か?
食料自給率とは、その国の食料供給おける国内生産の割合を示す数字です。数字が高ければ高いほど、国民が国産のものを消費していることになります。食料自給率の示し方については、重量で計算する「品目別自給率」、食料全体を共通の単位で揃えて計算する「総合食料自給率」の2種類がある点が特徴です。また、総合食料自給率については熱量換算の「カロリーベース」、金額換算の「生産額ベース」が存在します。
カロリーベース総合食料自給率とは、食材の主な栄養価であるエネルギー(カロリー)に着目した換算方法です。国民に供給される熱量(総供給熱量)への、国内生産の割合を算出します。
一方で、生産額ベース総合食料自給率については、経済的価値に着目している点が特徴です。こちらは国民に供給されている食料の生産額と、国内生産の割合について示すうえでの指標となります。
日本の食料自給率について
日本の食料自給率は、他の先進国と比べても低い水準にあるのが実情です。実際、現在の日本の食料自給率は38%と非常に低い数字になっています。カナダの266%、オーストラリアの200%、アメリカの132%、フランスの125%などと比べると、大きく後れを取っていることがわかるでしょう。
そんな日本も、1965年には食料自給率が70%以上と、非常に高水準な時代がありました。そこからここまで数字が低下した理由としては、コスト重視による外国産輸入の増加、肉や油といった食材を多く使用する洋食の需要増加などが挙げられます。
また、近年では食の多様化が進む一方で、アメリカやカナダのような広大な国土を持たない日本では、生産力に限界が生じることに。その結果、海外からの食料輸入に頼りがちとなり、厳しい競争にさらされた国内生産は減少する一方になりました。
日本の海産物の食料自給率
古くより魚食をメインとしていた日本ですが、昔に比べると海産物の食料自給率も減少傾向にあります。農林水産省によると、最も古いデータである1965年度の国民1人1年あたりの魚介類の消費量は28.1kgであり、食用魚介類の自給率は110%にものぼりました。食卓に並ぶ海産物は、ほぼすべてが国産品だったのです。
1980年になると、食用魚介類の自給率は97%となり、相変わらず高水準ではあったものの徐々に数値が低下。2000年には食用魚介類の自給率は53%にまで低下しており、国産品と輸入品がほぼ半々となりました。一方で、2020年は自給率が57%に上昇。ただし、1人1年あたりの魚介類の消費量は大きく減少しており、国民の魚離れが顕著となる結果になっています
地域別の海産物の生産量
日本の食料自給率の低さが問題視されているなかで、海産物については消費量こそ減少しているものの自給率は一定の水準を保っています。一方で、海産物生産量は地域によって差が生じているのも事実です。各地域の生産量がどの程度であるか、表で確認しておきましょう
都道府県 |
生産量 |
全国 |
28,937 |
北海道 |
8,702 |
青森 |
620 |
岩手 |
715 |
宮城 |
1,700 |
秋田 |
55 |
山形 |
32 |
福島 |
565 |
茨城 |
2,710 |
千葉 |
1,026 |
東京 |
282 |
神奈川 |
279 |
新潟 |
255 |
富山 |
256 |
石川 |
474 |
福井 |
86 |
静岡 |
1,524 |
愛知 |
376 |
三重 |
625 |
京都 |
114 |
大阪 |
204 |
兵庫 |
413 |
和歌山 |
145 |
鳥取 |
819 |
島根 |
978 |
岡山 |
25 |
広島 |
169 |
山口 |
198 |
徳島 |
95 |
香川 |
134 |
愛媛 |
780 |
高知 |
406 |
福岡 |
216 |
佐賀 |
68 |
長崎 |
2,419 |
熊本 |
131 |
大分 |
188 |
宮崎 |
675 |
鹿児島 |
381 |
沖縄 |
97 |
単位:100t
※農林水産省「令和4年漁業・養殖業生産統計」より抜粋
表を見るとわかるとおり、北海道や茨城、長崎などの海に面している地域は高い数値となっています。一方で、人口密集地域である東京や大阪、愛知については低数値の結果となりました。
海産物の主な輸入国
近年の日本は、海産物についても輸入の割合が大きくなりつつあります。輸入品目のなかでも特に多いのが、サケ・マス類、カツオ・マグロ類、エビなどです。
取引国については品目によって違いが生じており、サケ・マス類はチリ・ノルウェー、カツオ・マグロ類は台湾・中国・マルタ、エビはベトナム・インド・インドネシアといった国がメインの輸入国となっています。
食料自給率向上のための取り組みと課題
食料自給率の向上は、国も大きな課題として認識しており、さまざまな政策を打ち出しています。なかには漁業と密接に関連する取り組みも存在しているため、ここで確認しておきましょう。
日本が食料自給率向上のために行っている政策
農林水産省が2020年に策定した「食料・農業・農村基本計画」によると、食料自給率を2030年までにカロリーベース45%、生産額ベース75%に引き上げることを目標に掲げています。
目標実現のため、これまで農林水産省は「魚の国のしあわせプロジェクト」など、国民に対して海産物の魅力を伝える取り組みを続けてきました(2012年~2021年9月)。具体的なものとしては「ファストフィッシュ」が挙げられるでしょう。「調理が面倒」というイメージを払拭すべく、そのまま食べられるフィッシュナゲットや、簡単に料理で使用できる国産シーフードミックスなどを打ち出しており、魚食のイメージアップを狙いました。
今後も農林水産省では、「ネットスーパーやコンビニでの魚メニューの充実化」「体験要素を加えた魚食普及活動等」を提案し、多様化する市場のニーズに対応しながら魚介類消費の裾野を広げていくことを目指しています。
食料自給率向上における課題と今後の展望
さまざまな取り組みにもかかわらず、なかなか日本の食料自給率が上がらない理由として、生産者の高齢化及び後継問題が挙げられます。ただでさえ少子高齢化が進み人手不足が深刻化する日本において、農業や漁業は「きつい仕事」といったイメージを抱かれやすく、若い働き手の確保に苦労しているのです。
それでも水産庁は変化する消費者ニーズへの対応、未利用魚の活用による新たな市場創出や魚食普及の推進などの取り組みを強化。現在輸入に頼っている部分を国産品で対応できる体制を整えるべく、今後もさまざまな取り組みを推し進める意向を示しています。
漁業従事者にとっても食料自給率は重要!
日本の食料自給率は決して芳しくなく、国を挙げてさまざまな取り組みが進められています。そのなかには漁業関連のものも多くあり、漁業従事者にとっても他人事ではありません。まずは海産物の食料自給率について把握しつつ、具体的にどのような解決策があるかを確認してみてください。