
政府からは安全性がアピールされていますが、日頃から海で働く漁業従事者にとっては他人事ではなく、不安を抱く方もいるでしょう。
そこで今回は、そうした方に安心してもらうためにも、ALPS処理水の放出について正しい知識を紹介します。
目次
ALPS処理水の放出とは
ALPS処理水とは
ALPS処理水の放出について知るうえで、まずは「ALPS処理水は何か」についてしっかり理解する必要があるでしょう。
現在、東京電力福島第一原子力発電所の建屋内には、放射性物質を含んだ水が貯蔵されています。この水に含まれたトリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たせるレベルにまで浄化したものがALPS処理水です。
トリチウムについても、放出の前に海水でしっかり薄められており、安全基準を十分に満たすものとなっています。
実際、海水によって薄められたトリチウム濃度は、国が定めた安全基準の40分の1未満であり、人体に有害な影響を与えるものではありません。
また、放出量についてもしっかり管理されています。
ALPS処理水に含まれるトリチウムについて
ALPS処理水にはトリチウムという放射性物質が含まれており、この物質について詳しく知りたい方も多いはず。
トリチウムは「三重水素」とも呼ばれる水素の仲間であり、日常的に自然発生しています。
トリチウムは日々使用している水道水だけでなく、雨水や体内にも含まれている物質です。自然界に広く存在しており、目には見えなくとも非常に身近な存在と言えるでしょう。
世界中に点在する原子力施設はこのトリチウムを海に放出していますが、現在に至るまで異常は確認されていません。
ALPS処理水の放出に至った理由
これまで貯留し続けていたALPS処理水を、なぜ今になって日本政府が海洋放出すると決断したのか、理由を知っておくことは非常に重要です。
現在、ALPS処理水を貯蔵する巨大タンクは東京電力福島第一原子力発電所内に設置されていますが、その数は1,000個を超えるまでに増加しています。
東京電力福島第一原子力発電所では現在も廃炉作業が進められていますが、作業に必要な施設を建てるためのスペースが、巨大タンクで埋まってしまっている状況です。
そこで、タンクの数を減らすため、ALPS処理水の放出が開始されました。
この決定については、国際原子力機関IAEAも「国際的な安全基準に合致」と結論付けている点は見逃せません。
IAEAは約2年間の調査をまとめた報告書にて、人体への悪影響はなく、国際水域への影響もないと記しており、その安全性を保障しています。
ALPS処理水の放出についての間違った見解
ALPS処理水放出が始まって以降、さまざまな報道が成されています。
なかにはまったく根拠のない誤った情報を流すメディアや人物がいることも、把握しておかなければなりません。
たとえば、ALPS処理水放出について「十分な議論を重ねずに決断した」という批判については、事実と異なる点は理解しておくべきでしょう。
実際には、2013年12月より経済産業省のトリチウム水タスクフォースや小委員会で議論が重ねられてきており、そのうえでの決断となりました。
このように、科学的根拠に基づかない感情論優先の情報については、鵜呑みにしない姿勢を意識しなければなりません。
インターネットが普及している現代社会では、不安につけ込む悪質なフェイクニュースを流すメディアも存在するため、まずはALPS処理水について正しい知識を身につけたうえで、情報の正誤について判断するようにしてください。
理解を示す各国の反応
日本のALPS処理水放出については、特に強く反発する国がある一方、多くの国が理解を示してくれています。
ここでは、ALPS処理水放出に理解を示す各国の反応について紹介します。
ハンガリー
中央ヨーロッパに位置するハンガリーでも、日本のALPS処理水放出については連日報道がされてきました。
そのほとんどは、「IAEAのお墨付きを得ている」「近隣国が遺憾の意を表明している」など、事実を伝えるものに。
また、日本の海産物への輸入制限といった措置はなく、現時点では今後もその予定はないとしています。
アメリカ
アメリカでは、ALPS処理水放出について高く評価。東日本大震災以降、IAEAや科学者と積極的に連携しながら、責任を持って管理しようとしてきた日本を評価しており、アントニー・ブリンケン国務長官も「日本の計画に満足している」と語っています。
また、米国食品医薬品局(FDA)も日本の海産物の安全性を紹介しており、輸入制限などの措置は取られていません。
アラブ首長国連邦
中東に位置するアラブ首長国連邦では、日本のALPS処理水放出について国として特に声明などは発表せず。
国内メディアはALPS処理水放出を報じているものの、「海水サンプル検査の結果、トリチウム濃度は安全基準を下回っていた」などの事実を報じるにとどまっており、客観的な姿勢を見せています。
漁業者等への金融上の措置について
ALPS 処理水の海洋放出によって、漁業従事者は今後も風評被害などさまざまな影響を受ける懸念があります。漁業生産量の減少が課題となっているなかで、ますます逆風が吹く状況ですが、経済産業省では対策として「ALPS処理水の海洋放出に伴う影響を乗り越えるための漁業者支援事業」に係る補助事業者の公募をスタート。
漁業者支援事業費補助金が設定され、国としても支援の姿勢を明確にしています。
募った補助事業者により造成された基金を活用することで、ALPS処理水海洋放出の影響の軽減が期待できるでしょう。
また、創意工夫による漁業継続のための取り組み実現に向けた支援についても、本制度の目的です。
補助金については、漁業経営安定化推進協会のホームページから、申請要領や交付規定を確認できます。
今からできる、海産物の国内消費
ALPS 処理水放出によって、海産物の海外輸出に影響が出ているのは事実です。日本産の海産物の禁輸措置を取る国もあり、大きな打撃となりました。
一方で、国内では日本の海産物消費を支援する動きが広がっています。
農林水産省は「#食べるぜニッポン」というフレーズをSNSで広げる動きを見せ、海産物消費をサポート。
大手居酒屋チェーン店も北海道産のホタテを使用した特別メニューを提供するなど、支援は広がり続けています。
また、大手スーパーマーケットでは、独自に海産物のトリチウム濃度を調べる検査を実施。
ホームページ上で結果を公表することで安全性をアピールしており、消費者が安心して購入できる取り組みを行なっています。
そのほか、経団連も加盟企業に対して日本産の海産物の積極的な消費を呼びかけています。
「食べて応援」の意識は国内に広がりつつあり、今後も継続していくことが期待されるでしょう。