
近年の日本の漁業は、日本人の魚離れ、少子高齢化による後継者不足や地方過疎化など、多くの課題を抱えています。漁業従事者であれば、こうした課題の解決策について、日々考えを巡らせているかもしれません。そこで、今回紹介したいのが「ビジネスエコシステム」です。他業界ではすでに導入が進んでいるこのビジネスエコシステムをうまく活用できれば、さまざまな問題の解決に向けた一助になるでしょう。
目次水産業におけるビジネスエコシステムとは?
ビジネスエコシステムとは、ビジネス上の生態系です。元々エコシステムは生物による「生態系」を示しており、それがビジネスの世界に導入された形となります。アメリカのシリコンバレーが代表的な例となりますが、業種・業界の垣根を越え、複数の企業・団体が連携することで、それぞれが備える特徴を活かしつつ新事業を展開。これによって、共存・共栄していく仕組みがビジネスエコシステムの特徴です。
ビジネスエコシステムへ参加することにより、その企業は自社が展開する商品やサービスを、これまでなら接点がなかった新規層にアピールできます。これにより、会社そのものの認知度も大きく向上することとなり、ブランディングにも好影響となるでしょう。
また、認知度が向上すれば顧客を獲得しやすくなり、より大きな事業や新たな事業にもつながる可能性が生まれます。他社のノウハウやアイデア、人材を活用すれば、日々目まぐるしく変化するビジネス環境への対応力が上がるのも間違いありません。
また、ビジネスエコシステムは一業者のみにとどまらず、業界全体に好影響が出る期待が持てます。ある業者がビジネスエコシステムによって培ったノウハウを活かし、新たなサービスや商品を開発できれば、業界全体として大きな刺激になるだけでなく新たなマーケティング創出につながるでしょう。
水産業界においてもこのビジネスエコシステムは注目されつつあり、現時点でも「環境に配慮した持続可能な水産業」「持続可能で利益率の高い水産業を実現するシステム」などが存在します。今後さらにビジネスエコシステムへの理解が進めば、業界全体にも明るい兆しが見えてくるはずです。
水産業におけるビジネスエコシステムの事例
世界的な大企業では、すでに形成が進んでいるビジネスエコシステム。日本の水産業界でも徐々に注目されつつあり、実際に導入している事例も存在します。少しでもビジネスエコシステムへの理解を深めるため、ここでは2つの事例をチェックしておきましょう。
ウニの再生養殖と藻場再生を同時に実現
水産業界におけるビジネスエコシステムの事例として、日本の東北地方にある企業が行った、ウニの再生養殖と藻場再生の事例が挙げられます。この企業では、国立大学と共同でウニのエサなどについて研究開発をしており、ウニ殻を活用した藻場再生活動も行っていました。
高級食材として知られるウニには、これまでは身の部分以外に用途が見つけづらい実情があり、殻部分についてはこれまで産業廃棄物として処分せざるを得ない状況がありました。一方で、ウニの殻は鉄分、リン、マグネシウムなどの成分が含まれており、これらは海藻の養分になり得ます。そこで、ウニ殻を堆肥ブロックにすることで、海藻を増やすプロジェクトが始動。2021年に行われた実証実験の結果、ウニ殻による堆肥ブロックは海藻の増殖に効果的であると確認されました。
また、こうした活動には地元の子どもたちも参加。漁師と一緒に藻場作りを体験することで水産教育につながり、将来的な人材確保も期待できる仕組みとなっています。
さらに、このプロジェクトによって藻場再生が確認されたことで、カーボンクレジットの発行も実現しました。このクレジットを事業の特徴からどうしても二酸化炭素を排出してしまっている大手企業が購入すれば、SDGsの定める「気候変動に具体的な対策」をクリアできる仕組みになっています。
これによって上記企業が東北地方でウニ牧場を展開するエリアは、国内最大規模のCo2吸収源として認定され、その価値を高めることにつながりました。
地域内での生産・加工・物流・消費を目指す
長崎県では、ある料理人が「飲食業のみにとどまらず、漁業者なども含めた水産業全体の発展・維持が必要である」との想いから、地域内で経済を循環させるためのプロジェクトを提唱しました。
一般的に水産業界では、外部に向けて商品を展開していくため、事業規模拡大や漁獲量の増加を目指しています。しかし、新たなシステムにおいては生産者が周囲や自分達に適した事業規模を維持。システムに賛同する業者同士で情報共有などを密にしつつ相互発展を目指していくため、うまくいけば生産・加工・物流・消費のすべてが潤うようになるのです。
そして最終的には、地域内のみでの経済循環を成し遂げることが目標に。これが実現すれば、外部の影響を受けにくくなり、それぞれの業者の経営がより安定するようになるでしょう。
こうした考えは、まさにビジネスエコシステムの一環です。現在では長崎県でこのシステムに賛同した水産業者による協議会も発足しており、地域の水産業の未来を見据えたメンバーが加入しています。
ビジネスエコシステムの可能性を知ろう!
現在の日本では漁業者の数が減少傾向にあり、高齢化問題にも直面するなどさまざまな課題を抱えています。何かしらの打開策が必要となるなかで、今回紹介したビジネスエコシステムはその糸口になる可能性があるでしょう。水産業の未来について少しでも明るい展望を描くためにも、ビジネスエコシステムの理解を深めることは大きな意味を持つはずです。