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国内の秋鮭漁と漁獲量について
国内の秋鮭漁が不漁となっているのは、データを見ても明らかとなっています。「北海道立総合研究機構さけます・内水面水産試験場」は、2024年の秋鮭来遊予測値は前年実績比24.5%減となる1,702万9,000尾になると公表(※1)。この数字は過去最低だった2017年の1,737万尾すらも下回る結果となっており、引き続き不漁が続くと予想されます。
北海道だけでなく岩手県でも、鮭の漁獲量が2010年 の1万9,011トンから、2021年には413トンにまで激減。1万トンを割り込む状況が続いており、水産事業者にとっては厳しい状態が続いていると言えるでしょう。
日本ではふ化放流技術の向上もあり、1970年代半ば以降の鮭の漁獲量は増加傾向にありました。しかし、最近では川を上ってくる鮭の減少もあって入手できる卵の数にも限界が生じていることから、ふ化放流技術の向上があっても問題が解決しない事態が続いているのです。
海水温上昇が秋鮭不漁を引き起こす
日本で秋鮭の漁獲量が減少している原因として、まず挙げられるのが「地球温暖化」です。地球温暖化が進めば海水温の上昇を引き起こし、結果的に環境の変化へとつながります。これが鮭にとっても大きな影響を及ぼしているのです。
鮭類の子どもが順調に成長していくためには、5℃以上の水温が必要となります。そのため、かつては日本より北にあるロシア沿岸は鮭にとって水温が低過ぎ、成長が阻害される状況にありました。だからこそ、鮭は自分たちにとって最適水温(8~12℃)とされる水域が広がる日本に生息していたのです。
しかし、地球温暖化によって地球全体の水温が上昇。鮭にとっての適水温(5~12℃)は徐々に北へと移動していき、今ではロシア沿岸部のほうが生息しやすい環境となりつつあります。
一方の日本では、海水温の上昇により、三陸地方の沿岸部が以前ほど鮭にとって環境の良い場所ではなくなりました。鮭の幼魚が滞在できる「適水温」を保っている期間は、1990年代半ばと比べて2週間ほど短縮されており、これが大きな懸念点となっています。
ちなみに、これは日本に限った問題ではなく、同様の事象はカナダのブリティッシュコロンビア州でも1990年代以降に確認されています。そのため、こうした魚の生息地の変化は日本のみでなく、世界全体の問題とも言えるでしょう。
プランクトン減少と秋鮭の危機
秋鮭の漁獲量が減少している大きな原因として、海水温の上昇を説明しました。ただし、ほかにも原因は存在します。それが秋鮭の重要なエサであるプランクトンの減少です。鮭の主なエサとして知られているのは、カイアシ類やオキアミ類などの動物プランクトンとなります。
この動物プランクトンのエサとなるのが、植物プランクトン。植物プランクトンは二酸化炭素と水によって光合成する特徴を持っており、水中の二酸化炭素を減らす役割も担っています。
しかし、近年ではこの植物プランクトンの数が減少。植物性プランクトンは海底からせり上がってくる栄養分を必要としていますが、海水温が上昇してしまうと温かい水が蓋のようになってしまい、海面の栄養分が減少してしまいます。その結果、プランクトン数が減少したと考えられています。
これにより、植物性プランクトンをエサとしている動物プランクトンの数も減少します。これが秋鮭の危機に結びついてしまうメカニズムとなっているのです。結局のところ、すべては海水温の上昇、ひいては地球温暖化が原因となっているので、水産事業者として少しでも改善に向けた取り組みが求められているのは間違いありません。
変わる回遊ルートと秋鮭減少
「通し回遊魚」として知られている鮭は、一度川から海へと向かい外洋を回遊して成熟したあと、生まれた川へと回帰します。この回遊ルートについては、これまでさまざまな手法によって調査がされており、解明が進められています。
基本的に、日本系シロサケの幼魚は海に降りたあとでも1~3ヶ月間は河口から程近い沿岸部で生活。沿岸部で生活している期間で遊泳能力や捕食能力を身につけ、初夏までにオホーツク海の方向へ回遊を開始します。
オホーツク海には豊富な餌があることもあり、幼魚は晩秋頃までこの海域でスクスクと成長。その後北太平洋西部への回遊を開始し、最初の冬を越します。そこから春になるとベーリング海へ回遊し、秋季まで過ごすことで大きく成長していくのです。
11月頃からはアラスカ湾へ移動して越冬。春季はベーリング海、冬季はアラスカ湾で過ごすようになり、4年近く経って成熟魚となったら千島列島沿いを南下し、日本の川へと帰還します。
これが日本で獲れる鮭の基本的な回遊ルートであり、基本的には冷たい海水を好むのが特徴です。そのため、このまま海水温上昇が続けば鮭の回遊ルート変更やストレス増加につながるリスクがあり、水産事業者にとっては大きな懸念となっています。
海水温上昇による秋鮭への影響を知ることが大切
地球温暖化や海水温上昇の影響によって秋鮭の回遊行動に変化が生じ、それによって漁獲量も減少してしまっています。漁業関係者としては、身近な魚にどのような変化が生じているか把握することで、将来的な変化にも対応できるようにしておくべきでしょう。