物流の2024年問題|漁業者への影響は?

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瓜生 光

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現在、日本において問題視されているのが「物流の2024年問題」です。働き方改革の一環として時間外労働時間が大きく見直されることになり、業界全体が対応に追われています。この物流業界の問題は、漁業者にとっても決して他人事ではありません。物流業界と漁業界には密接な関係があるため、少なからず影響を受けるでしょう。今回は、物流の2024年問題について詳しく解説するとともに、漁業者に生じ得る影響についても説明します。

目次

物流の2024年問題の概要と背景

物流の2024年問題とは、厚生労働省が推進する働き方改革法案により、ドライバーの労働時間に上限が課せられることに端を発する問題の総称です。この改革法案によって、トラックドライバーの時間外労働時間は年間960時間までと制限されることになりました。

これにより、ドライバー1人当たりの走行距離が短くなることは確実です。時間外労働が増えてしまう長距離移動が困難となることで、物流にも大きな影響が生じると懸念されています。

厚生労働省がこの法案を推進する背景には、これまで物流・運送業界はその仕事の特性上、長時間労働が常態化していたという問題がありました。漁業と同様に物流業界もドライバーの高齢化や若手不足といった課題を抱えており、それでもEC(電子商取引)の成長による需要増加に対応するためには、どうしても一人ひとりの労働時間が長くなってしまっていたのです。

働き方改革関連法は、こうした問題の解決策として施行されました。なお、この法案には業務の特性も加味されており、一般企業において原則月45時間、年間360時間と規定されている時間外労働が、物流・運送業界に限っては上述したように年間960時間と長めに設定されています。

働き方改革法案はドライバーの負担を軽減するものではありますが、これによって起こる2024年問題への解決策が見出せない場合、物流業界全体に大きな影響が生じるのは事実です。国による「持続可能な物流の実現に向けた検討会」によると、2024年問題を放置していた場合、営業用トラックの輸送能力は2024年に14.2%、2030年に34.1%不足する恐れがあるとされています。

漁業者にとっての物流の重要性

漁業者にとって、物流の問題は他人事ではありません。営業用トラックの輸送能力が低下すればするほど、鮮度の低下に直結するリスクがあるからです。鮮度が下がってしまえば、競合業者にも大きく後れを取ることになるでしょう。水産物の鮮度を保ちつつ競りに間に合わせるためには、トラックによるスムーズな輸送が必要不可欠なのです。

この問題は、産地と消費地が離れていればいるほど顕著になります。そして、水産業は都市部より地方で営まれているケースが非常に多く、長距離輸送が多く生じる業界です。このように、漁業者にとって物流は非常に重要性が高く、営業用トラックの輸送能力減少や輸送費上昇が起こった場合、死活問題となり得るでしょう。

物流の2024年問題を対岸の火事だと考え放置していると、気付いたときには大きな影響を受けてしまう恐れがあります。そのため、漁業事業者であるなら、この問題に早めに対処しておかなければなりません。

物流問題の漁業者への具体的な影響

物流の2024年問題に対処するため、より具体的な影響については把握しておきたいところでしょう。農水省なども参加した「持続可能な物流の実現の検討会」では、民間のNX総合研究所が試算したデータが公表されており、「農産・水産品出荷団体」で不足する輸送能力の割合は32.5%に上ると判明しました。

新たな働き方改革法案では、トラックドライバーに対して4時間の運転ごとに30分の休憩を取ることが求められています。これにより、今後は「今まで1人で問題なく運転していた距離であっても、2人のドライバーによるリレー形式の輸送で対応する」といったケースが出てくる可能性も。当然、物流・運送業者側の人件費が嵩むことから、輸送料金が上がる懸念も生じるでしょう。

また、休憩を挟みながらの輸送やリレー形式の輸送となると、これまでより運送時間が長くなる事態も十分想定されます。水産業の輸送はほとんどがトラックに依存している事情もあり、2024年問題によって輸送時間が長引けばそれだけ鮮度の低下を招いたり競りに間に合わなくなったりする危険性もあるでしょう。

加えて、物流・運送業者からすれば少しでも人件費を削減したいところなので、「出荷量が直前まで定まらない」「市場での荷降ろしをするのに待ち時間が長い」といった事情を抱える水産物の輸送は避けられる恐れもあります。せっかく新鮮な水産物を都市部に送ろうとしても、その手段が見つからなければ漁業者にとって大きなダメージになるのは間違いありません。

水産業界の取れる対応策は?

2024年問題はすでに間近に迫っており、少しでも早く対応策を見つける必要があるでしょう。ここでは、水産業界が取れる対応策についていくつか紹介します。

1運行あたりの日数延長(トラック輸送)

トラック輸送にこだわるのであれば、1運行あたりの日数延長も選択肢になるでしょう。これにより、産地競争力の低下を招く恐れはあるものの、加工品へのシフトなどによって影響を最小限に抑えることは可能です。

・モーダルシフト(船)

トラックによる輸送が2024年問題によって難しくなるのであれば、「モーダルシフト」の検討もおすすめです。モーダルシフトとは、トラックなどで行われている貨物輸送を、鉄道や船舶に転換することを指します。船へのモーダルシフトであれば、従業員の休憩時間中も船の運行は止まらないため、時間外労働の削減が可能になります。

・モーダルシフト(鉄道貨物)

船同様、鉄道貨物へのモーダルシフトも選択肢となります。鉄道はトラックと違い渋滞に巻き込まれるなどのリスクがなく、時間外労働が生じにくい点は大きなメリットになるでしょう。

・共同輸送

少しでも物流・運送業者の時間外労働時間を減少させるためには、他社と同じトラックを共有する手段もあります。競合他社にこちらの事情を知られるリスクこそあるものの、積載量を増やせるのは明確な利点です。

・中継輸送

長距離輸送が難しいのであれば、中継地点を作り近距離・中距離に分割する中継輸送を検討しても良いでしょう。通常の長距離輸送と比べてリードタイムは延長されてしまいますが、時間外労働時間削減には効果を発揮します。

早い段階で2024年問題に対処する意識が重要に!

2024年問題は目前にまで迫っており、物流・運送業界だけでなく漁業従事者にも大きな影響が出ると予想されています。そのため、問題が発生してから慌てて対処するのではなく、あらかじめ対応策を見つけておくことが重要です。今回紹介した内容も参考にしつつ、できる限り備えを万全にしておきましょう!