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瓜生 光
日本のみならず、世界中で広く親しまれている海の幸・ホタテ。しかし、貝殻については廃棄せざるを得ず、これがさまざまな悪影響につながっていることが問題視されていました。そんななかで、近年はホタテの貝殻をリサイクルする動きが広まりつつあります。ホタテの貝殻には実はさまざまな活用方法があり、注目を集めつつあるのは間違いありません。そこで今回は、ホタテの貝殻の有効なリサイクル方法について紹介します。
目次
ホタテは日本においても代表的な“海の幸”であり、昭和50年代後半にはホタテだけで年間8万トンもの量が水揚げされていました。現在もホタテは日本の水産物において大きな存在であり、農林水産省が発表したデータによると、2021年における水産物の輸出額トップとなっています。
一方で、近年問題視されているのがホタテの「貝殻」の扱いです。今まで大量の貝殻は山などに廃棄処分されてきましたが、これが土壌の汚染につながることが指摘されています。また、これまでは効果的なリサイクル方法もなかなか見つからず、扱いに困っていたのも事実です。
しかし、最近ではホタテの貝殻の有効なリサイクル方法が次々と実行されています。これによって、環境保全のみでなく貝殻の処理も進められるようになっており、水産業者であれば見逃せない事象と言えるでしょう。適切なリサイクルを進めることで、今後ホタテの貝殻は多くの恩恵を授けてくれる期待が持てます。
水産業者であれば、ホタテのリサイクル方法については把握しておきたいところです。もし、適切なリサイクルができれば思わぬ収入となる期待が持てるだけでなく、環境問題への取り組みがブランディングにつながる可能性もあります。現在、ホタテの貝殻の廃棄方法で悩みを抱えているようなら、ここでリサイクル事例について確認しておきましょう。
ホタテの貝殻のリサイクル事例として、「防災ヘルメット」の開発が挙げられます。大阪府に本社を置く化学工業会社と北海道の自治体は2022年、ホタテの貝殻を再利用した環境配慮型ヘルメットを発表。
これまでヘルメットにはプラスチックが主な材料として使われてきましたが、環境問題につながることが懸念されていました。そんななかで注目を集めたのが、炭酸カルシウムを主成分とするホタテです。上述した会社によって、ホタテ貝殻と廃プラスチックを組み合わせた新素材が開発されました。
これにより、ホタテ貝殻の廃棄量削減にも成功しており、さまざまな恩恵をもたらしてくれています。
ホタテの貝殻の再利用方法として、近年注目を集めているのが洗剤です。関東に店舗を構えるプラスチックフリー用品専門店では、ホタテの貝殻を洗剤の素材に使用。3年以上天日干しした貝殻を洗浄したあとに高温で焼き上げ、100%天然成分のパウダーに加工しました。洗浄や消臭、除菌などの効果を期待できるだけでなく、食品の洗浄やペット用品の手入れにも使用できるのが特徴です。
また、強力な性能を誇りながらも、排水によって自然を汚す心配もありません。そのため、海洋汚染の防止にも貢献できるでしょう。
ホタテの貝殻が持つポテンシャルはさまざまな分野で注目されており、その理由は貝殻に含まれる成分にあります。北海道に本社を置くリサイクル業者は、ホタテの貝殻から作られる「アパタイト」が使用された歯磨き粉を大学教授と共同で開発。アパタイトの正式名称は「ハイドロキシアパタイト」であり、人間の骨の成分と同様のリン酸カルシウムとなります。
このアパタイトは人工歯根であるインプラントにも使用されているなど、人体に無害な成分です。ここに着目し開発された歯磨き粉には、35%のアパタイトが含有されており口腔内の汚れ・雑菌を吸着。これによって、口臭や歯槽膿漏の原因を体外へ排出しやすくなります。
ホタテの貝殻はただ廃棄するだけだと、生物に対してさまざまな悪影響を及ぼす懸念がありますが、上手に活用すれば生物の成長に役立つ可能性もあります。その一例として、現在ホタテの貝殻は養鶏場で鶏のエサとして活用されています。ホタテの貝殻にはカルシウムが含まれており、鶏の栄養補給にうってつけでしょう。
また、ホタテは飼料としてだけでなく、特殊肥料としても大きな可能性を秘めています。東北地方の産業協同組合によって開発された特殊肥料は、カルシウムを含んだむつ湾産のホタテを使用しながらも、脱塩処理によって塩分を除去。ホタテの貝殻を、作物を育てる肥料へと再利用することに成功しました。
すでに紹介したようにホタテにはカルシウムが含まれています。酸性土壌の改良、カルシウムが不足した土地に良い効果が期待できるでしょう。
国内外で多くの需要があるホタテ漁ですが、大量の貝殻が廃棄されることで土壌汚染などの問題を招く懸念も指摘されてきました。しかし、最近では貝殻の再利用に大きな注目が集まっており、洗剤や歯磨き粉、飼料などへの活用が進められています。新たな事業創出という意味からも、水産業者にとってこうした貝殻の再活用は一度確認しておく意識が大切になるでしょう。